- 七夕伝説。
むかし、空のかなた星々の集まるの天の川一帯を支配していた、天の神様がいました。
そして天の神様、天帝には、織姫という機織りのとても上手な娘がおりました。
そして、織姫もそろそろお嫁に出してもよい年頃になったので、
天帝はいくつも見合い話を集め織姫の花婿候補を探していました。
天帝:どうだ?
気になった者はいたか?
織姫:父さん!私は仕事以外興味ないんです!
今は、織物が足りなくて忙しい時期なの!!
それに、機織り仕事が楽しいんです!
天帝:(・・やれやれ、これでは婚期を逃してしまうぞ・・。)
よかろう・・。その気になるまで気長に待つとしよう・・。
織姫:これからの時代、女性だって社会進出すべきなんです。
女性の力が必要な時代になってるの・・。
と、いつもこのような具合で一向に縁談の話は進まないのです。
困り果てた天帝は、気分を変えようと、外へ散策に出かけることにしました。
小川に向かう道・・。
天帝がしばらく歩いていると、川のほとりで、一人の男が牛を洗っているのが見えました。
天帝は男に近づいていき、声をかけました。
天帝:お前の牛か?
気づいた男は、天帝のほうを向きました。
天帝:いつもここで牛の世話をしているのか?
男:はい。
僕の飼っている牛です。
僕は、もっとずっと西のほうに住んでいて・・。
今日は、こいつと一緒にここまで来たのです。
天帝は、この気取らない、落ち着いた物腰で答えてくる、若い青年がとても気に入りました。
「いつまでも仕事ばかりして、縁談を断り続ける娘をどうしたものか・・。」
天帝は、いつの間にか、初めて会ったばかりのその青年に織姫のこと、縁談の事など様々な悩みを打ち明けていました。
男:なるほど・・。
では、一度お嬢さんとお会いしてみましょう・・。
天帝:もし、おまえが気に入ってくれたなら、娘をもらってやってほしいのだが・・。
男:はははっ。
僕が好きになったとしても、お嬢さんが僕なんかを気に入ってくれるとは思えませんよ。
それに、もっと、僕なんかよりも、お嬢さんに見合った方がたくさんいる。
天帝:いいや、必ず今度こそ嫁に嫁がせる!
・・ところで、聞くのが遅くなったが、お前の名は何という?
彦星と申します。
ーーーーー織姫機織り場ーーーーー
彦星:・・・彦星と申します、織姫さん
天帝に連れられて、織姫の機織りをしている機織り場へやってきた彦星・・。
機織りをしている織姫は、彦星のほうに振り向きもせず答えました。
織姫:・・・。
邪魔しないで・・。
悪いけど、縁談話ならお断りです。
”ガッタン、ガッタン”
織物に集中する織姫の素気のない態度に、彦星は、少しだけ、ドキドキするのを感じました。
そして、にっこり笑ってつづけました。
彦星:見合い目的なら、もっと良い身なりをしてくるし、それに僕は・・。
急にしゃべるのをやめた彦星は、織姫の座っているほうへゆっくり歩いていきました。
織姫は機織りの手を止め、近づいてくる彦星をみていました。
そして、向かい合った二人は、お互いをしばらく”じっ”と見つめていました。
織姫:・・・。
あなた、すごく、「クサイ」ですね。
彦星:・・ふっ。
あっはっはっは!!
そっそうだね。
だって、僕は牛飼いなんだよ。
ウシの臭いが全身に染みついてるんだ!
そういっていきなり、笑いだした目の前の青年に、あっけにとられた織姫は少しだけ、心がゆるんでいくを感じていました。
彦星:実はね、ここに来たのだって、さっききみのお父さんにきみのことを相談されたからなんだよね。
織姫:・・。あなた、正直すぎるわ。
デリカシーがないっていうか・・。
どうせ、じゃじゃ馬娘が縁談を渋ってなかなか嫁に行こうとしないって話を、聞いたんでしょ。
彦星:きみだって、あって間もない男に向かって、「縁談お断り」だの「クサイ」だのってさ。
それって、かなり、ぶしつけなこと言ってるよ。
織姫:・・ふふ。
あはははは・・。
そうですね。お互い、似た者同士ってとこね。
と、いうわけで、あれよあれよという間に、二人はめでたく結ばれ夫婦となったのです。
天帝:・・ふう。
これでようやく、天界の仕事に打ち込める・・。
仲の良い二人を見ながら、天帝は、胸をなでおろしてつぶやきました。
しかし、数週間が経って天界のあちこちで、着物が不足したり、牛が病気になったり・・。
さまざまな、問題が起こるようになりました。
このことは、すぐに天帝の耳にも入りました。
そして、・・織姫と彦星が仕事にあまり出ていないことも・・。
天帝は、織姫と彦星を天界の謁見の間に呼び事情を聴くことにしました。
彦星:申し訳ありません。
明日からは、必ず、仕事に出るようにいたします。
天帝:・・わかった。
今回は大目にみよう。
しっかり働いて、一刻も早く、遅れを取り戻すのだ!
いいな!!
織姫:はい、明日の朝からは、必ず仕事に出ます。
ーーーーーそして、次の日・・。ーーーーー
これだけ、きつく言い聞かせたのだから、もう心配はないだろう・・。
そう思い、天帝は、二人の働いている様子をうかがいにそれぞれの仕事場に行くことにしました。
織姫の働いている機織り場に行くと、そこには、織姫の姿はなく、部屋は静まり返っていました。
機織り機は、ほこりが積もっていて、使われなくなった道具がただそこに置かれているのでした。
天帝は、彦星が何か知っているのではないかと思い、彦星の働く牛舎へと向かいました。
しかし、そこでも何か様子がおかしいのです。
彦星を読んでみても、返事はなく、牛達は力なくぐったりとしたまま、横たわっていました。
驚いた天帝はあわてて二人の住む家に行くと、家の中に二人はいませんでした。
天帝は、二人に何かあったのではないかと不安に襲われ、しばらく動くことができずにいました。
「これは、どういうことだろう・・。ふたりはいったい・・。」
すると、戸の外から笑い声が近づいてきます。
天帝は”ハッ”として、振り返りました。
”ガラッ”
戸が開くと、織姫と彦星がならんでおしゃべりをしながら、家の中に入ってきました。
天帝:・・・。
織姫と彦星:・・・。
振り返った天帝、それに気づいた織姫と彦星・・・。
三人は、その場で一言もしゃべれずに、ただ、立っていました。
−−−−−しばらくして、家から出る三人−−−−−
三人はそれぞれいるべき場所へ向かって歩き出しました。
天帝は、天界の玉座へ。
織姫は、天界に浮かぶ天の川を挟んだ西の端へ。
彦星は、天の川の東の端へ。
天帝は天界の玉座に座り、少し黙って考え込んでいました。
天帝:少し・・厳しすぎただろうか・・。
・・いいや、あの二人にはあれくらいの罰を与えなくてはいけない!!
しかし、天帝は、怒りに任せて、二人を天の川を隔てた両端に引き離してしまったことを少しだけ、後悔していました。
織姫が気になった天帝は、織姫のいる天の川の西の端の機織り場へと向かいました。
機織り場では、涙をボロボロ流しながら淡々と織り機を動かしている織姫の姿がありました。
それを見た天帝は、自分のしたことが急に恥ずかしくなりました。
天帝は、織姫に近づくといいました。
天帝:・・。織姫、一度だけなら許そう・・。
織姫は戸口から入ってきた天帝に驚いて、機織りの手を止めました。
天帝:織姫、年に一度だけは、・・彦星に会いに行きなさい。
七月七日だけは、お前たち二人の再会を許そう・・。
織姫:・・父さん。
こうして、織姫と彦星は、七月七日、天の川を渡り、一日だけ夫婦に戻ることが出来たのです。
彦星:いつか、また、一緒にならんで歩けるように、僕はもっと偉くなってきみを迎えに行くよ・・。
織姫:待ってるよ、ずっと。
また一緒にいられるように。
天の川のずっと上の方。
二人がそれぞれの場所へと変えるのを見届けるかのように、空を舞っていたカササギも、
遠い空の向こうへと飛んでいきました。
脚色:テン子&うっしー
画: テン子&イヌ
編: テン子
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